菜根譚 前集 201条-225条(漢文、読み仮名、現代語訳)

菜根譚の全文(漢文、訳) : 2014.11.17 Monday

ここでは菜根譚の前集 201条から225条 の漢文、読み仮名、現代語訳を紹介します。


前集_201


倹美徳也過則為慳吝
為鄙嗇
反傷雅道
譲懿行也過則為足恭
為曲謹
多出機心
倹は美徳なり過ぐれば慳吝となり
鄙嗇となり
かえって雅道を傷る
譲は懿行なり過ぐれば足恭となり
曲謹となり
多くは機心に出ず
倹約は美徳ではあるが やり過ぎるとケチになり
卑しくなって
かえって正道を損なう
謙虚は善行ではあるが やり過ぎると馬鹿丁寧になり
卑屈になって
得てして たくらみ心をおこす

前集_202


毋憂払意
毋喜快心
毋恃久安
毋憚初難
ふついをうれうことなかれ
かいしんをよろこぶことなかれ
きゅうあんをたのむことなかれ
しょなんをはばかることなかれ
思い通りにならぬことでくよくよするな
一時は思い通りになっても浮かれるな
いつまでも平穏無事が続くことをあてにするな
始めに困難にぶつかっても尻込みするな

前集_203


飲宴之楽多
不是個好人家
声華之習勝
不是個好人士
名位之念重
不是個好臣士
飲宴の楽しみ多きは
これ個の好人家ならず
声華の習い勝つは
これ個の好人士ならず
名位の念重きは
これ個の好臣士ならず
下品な歌を好む者は
よい人物ではない
酒宴ばかりやっている者は
よい家庭人ではない
名利ばかり気にする者は
よい社会人ではない

前集_204


世人以心肯処為楽
却被楽心引在苦処
達士以心払処為楽
終為苦心換得楽来
世人は心の肯うところをもって楽しみとなし
かえって楽心に引かれて苦処にあり
達士は心の払るところをもって楽しみとなし
ついに苦心のために楽しみを換え得来たる
世の人は自分でしたいと思うことを楽しみとするので
かえって その楽しもうとする余りに苦しい目にあう
道に達した人は意に沿わないことでも楽しみとするので
結局 苦しみの心が楽しいものにかわっている

前集_205


居盈満者
如水之将溢未溢
切忌再加一滴
処危急者
如木之将折未折
切忌再加一搦
えいまんにおるものは
みずのまさにあふれんとしていまだあふれざるがごとし
せつにふたたびいってきをくわうるをいむ
危急に処るは
木のまさに折れんとしていまだ折れざるがごとし
切にふたたび一搦を加うることを忌む
財産や地位が限度まで満ちたひとは
水があふれようとして かろうじて留まっているとうなものだ
あと一滴を加えてもあふれてしまうから それ以上を望んではいけない
危険にさらされている者は
木がいまにも折れようとして折れずにいるようなものである
それ以上 ひと押しでも加えることを切に忌むのである

前集_206


冷眼観人
冷耳聴語
冷情当感
冷心思理
れいがんもてひとをみ
れいじもてごをきき
れいじょうもてかんにあたり
れいしんもてりをおもえ
冷静な目で人を観察し
冷静な耳で人の言葉を聞き
冷静な気持ちで物事を判断し
冷静な心で道理を考える

前集_207


仁人心地寛舒
便福厚而慶長
事事成個寛舒気象
鄙夫念頭迫促
便禄薄而沢短
事事得個迫促規模
仁人は心地寛舒なり
すなわち福厚くして慶長く
事々、個の寛舒の気象を成す
鄙夫は念頭迫促なり
すなわち禄薄くして沢短かく
事々、個の迫促の規模を得
心優しい人は 心が伸びやかなので
幸せ厚く 喜び長く
何をしても伸びやかな雰囲気をかもしだす
心卑しい人は 心根がこせついているので
実入りも薄く恵み短く
何をしてもこせついた様子を示す

前集_208


聞悪
不可就悪
恐為纔夫洩怒
聞善
不可急親
恐引奸人進身
あくをきくときは
すなわちにくむべからず
ざんぷのいかりをもらすをなすをおそる
ぜんをきくときは
きゅうにしたしむべからず
かんじんのみをすすむるをひくをおそる
よくない噂を聞いたからといって
すぐにその人を憎まない方がいい
恨みを持つ者の意図的な悪口かもしれないから
よい評判だからといって
すぐにその人に近づかない方がいい
悪い奴が自分を売り込むために流したかもしれないから

前集_209


性燥心粗者
一事無成
心和気平者
百福自集
性燥に心粗なるは
一事も成ることなし
心和し気平らかなるは
百福おのずから集まる
せっかちでガサツな人は
何をやってもうまくいかない
なごやかで平静な人には
あらゆる福が訪れてくる

前集_210


用人不宜刻
刻則思効者去
交友不宜濫
濫則貢諛者来
ひとをもちうるには よろしく こくなるべからず
こくならばすなわちこうをおもうものさらん
友に交わるにはよろしく濫なるべからず
濫なれば諛を貢するもの来たる
人を使う場合は厳しすぎては駄目だ
一所懸命尽くそうという者まで去ってしまうから
友人を軽率につくるのは駄目だ
ゴマをする人間が集まってくるから

前集_211


風斜雨急処
要立得脚定
花濃柳艶処
要着得眼高
路危径険処
要回得頭早
風斜めに雨急なるところは
脚を立て得て定めんことを要す
花濃やかに柳艶やかなるところは
眼を着けえて高からんことを要す
路危く径険しきところは
頭を回らしえて早からんことを要す
嵐の吹きまくるところでは
足をしっかり立てねばならない
花や柳があでやかな美しいところでは
視線を高くしなければならない
大道であれ小道であれ危険なところでは
さっさと考えなおさなければならない

前集_212


節義之人
済以和衷
纔不啓忿争之路
功名之士
承以謙徳
方不開嫉妬之門
節義の人
済うに和衷をもってせば
わずかに忿争の路を啓かず
功名の士
承くるに謙徳をもってせば
まさに嫉妬の門を開かず
節操の堅い人物は
協調心で中和してこそ
はじめて他人と争わないですむ
功名に はやる人は
謙遜の徳を身につけてこそ
はじめて他人に妬まれないですむ

前集_213


士大夫
居官不可竿牘無節要
使人難見
以杜倖端
居郷不可崕岸太高要
使人易見
以敦旧交
士大夫
官に居ては竿牘も節なるべからず
人をして見難からしめて
もって倖端を杜がんことを要す
郷に居ては崕岸はなはだ高かるべからず
人をして見易からしめ
もって旧交を敦うせんことを要す
士大夫たるものは
官職にあるときは手紙の類にも節度がなければならない
他人に見透かされないようにして
付け込まれるきっかけを閉ざす必要がある
郷里にいるときは
あまりにお高くとまっていてはならない
他人に解りやすいようにして
古い交わりを厚くする必要がある

前集_214


大人不可不畏
畏大人則無放逸之心
小民亦不可不畏
畏小民則無豪横之名
大人は畏れざるべからず
大人を畏るれば放逸の心なし
小民もまた畏れざるべからず
小民を畏るれば豪横の名なし
高貴の人には畏敬しなければいけない
そうすれば 自堕落な心はなくなる
微賤の者にも 畏敬しなければいけない
そうすれば 横暴であるという悪評は立たない

前集_215


事稍払逆
便思不如我的人
則怨尤自消
心稍怠荒
便思勝似我的人
則精神自奮
ことややふつぎゃくせば
すなわちわれにしかざるひとをおもえ
すなわちえんゆう おのずからきえん
こころややたいこうせば
すなわちわれよりまさるひとをおもえ
すなわちせいしん おのずからふるわん
うまくいかないことがあったら
自分より恵まれない境遇の人を考えよ
怨みつらみが消えようから
心が怠けすさんだら
自分より優れた人を考えよ
おのずと精神が奮い立つはずだ

前集_216


不可乗喜而軽諾
不可因酔而生嗔
不可乗快而多事
不可因倦而鮮終
喜びに乗じて諾を軽しくすべからず
酔に因って嗔を生ずべからず
快に乗じて事を多くすべからず
倦に因って終りを鮮なくすべからず
嬉しいからといって軽はずみな承諾をするな
酔いにまかせて腹を立てるな
調子に乗って余計なことに手を出すな
途中で嫌になって尻切れトンボで終わらせるな

前集_217


善読書者
要読到手舞足蹈処方
不落筌蹄
善観物者
要観到心融神洽時方
不泥迹象
よく書を読むには
手舞い足蹈むところに読み到らんことを要す
まさに筌蹄に落ちず
よく物を観るには
心融け神洽らぐの時に観到らんことを要す
まさに迹象に泥まず
よく書物を読む者は
本当の事を理解できて小躍りするまでに読んでこそ
はじめて文字づらにとらわれない
よく事物を見る者は
心身が融合するまでに観察してこそ
はじめて現象にひきずられない

前集_218


天賢一人
以誨衆人之愚
而世
反逞所長
以形人之短
天富一人
以済衆人之困
而世
反挾所有
以凌人之貧
真天之戮民哉
天、一人を賢にして
もって衆人の愚を誨う
而して世
かえって長ずるところを逞しうし
もって人の短を形わす
天、一人を富ましめ
もって衆人の因を済う
而して世
かえって有するところを挟んで
もって人の貧を凌ぐ
真に天の戮民なるかな
天は一人を賢者にして
愚かな大衆を教えさせたのに
いつの世でも
その知恵をふりかざして
人々が愚かであることをはっきりさせた
天は一人を富者にして
貧しい大衆を救わせたのに
いつの世でも
その財貨を頼みとして
貧しい人々を苦しめた
本当に天は罪人である

前集_219


至人何思
何慮愚人
不識不知可与論学
亦可与建功
唯中才的人
多一番思慮知識
便多一番億度猜疑
事々難与下手
至人は何をか思い
何をか慮る愚人は
不識不知なりともに学を論ずべく
またともに功を建つべし
ただ中才の人は
一番の思慮知識多ければ
すなわち一番の億度猜疑多く
事々ともに手を下しがたし
悟った人は ことさら思慮しないし
愚かな人は 知識を働かせないから
学問を論じ また仕事をすることができる
ただそこそこの才能ある人だけは
思慮知識が多い分だけ
推測したり疑ったりするので
何につけても着手しにくい

前集_220


口乃心之門
守口不密
洩尽真機
意乃心之足
防意不厳
走尽邪蹊
口はすなわち心の門なり
口を守ること密ならざれば
真機を洩らし尽くす
意はすなわち心の足なり
意を防ぐこと厳ならざれば
邪蹊を走り尽くす
口は心に通じる門
しっかりと守らないと
秘密が漏れる
意欲は心の足
ちゃんと見張っていないと
横道にそれる

前集_221


責人者
原無過於有過之中
則情平
責己者
求有過於無過之内
則徳進
人を責むるには
無過を有過のうちに原ぬれば
すなわち情平らかなり
己れを責むるには
有過を無過のうちに求むれば
すなわち徳進む
他人を責める場合には
その人に部分的に過ちがあってもその他の誤っていないことを探し求めれば
心は平静である
自分を責める場合には
過ちがないつもりでも過ちがあるかもしれないと追及すれば
人格は向上する

前集_222


子弟者大人之胚胎
秀才者士夫之胚胎
此時若火力不到
陶鋳不純
他日渉世立朝
終難成個令器
子弟は大人の胚胎なり
秀才は士夫の胚胎なり
この時もし火力到らず
陶鋳純ならざれば
他日世を渉り朝に立つとき
ついに個の令器と成りがたし
青少年は大人の卵であり
秀才は士大夫の卵である
この時に火力が不足して
しっかり焼き上げられないと
将来、世に出て官位についても
ついには立派な人材にはなれない

前集_223


君子処患難而不憂
当宴遊而ξ
遇権豪而不懼
対惸独而驚心
くんしはかんなんにおりてはうれえざるも
えんゆういあたりてはてきりょす
けんごうにあいてはおそれざるも
けいどくにたいしてはこころをおどろかす
君子は苦境にあってもくよくよしない
ただ歓楽の場では用心に用心を重ねる
君子は横暴な権力者の前でもビクビクしない
ただ身寄りのない孤独者に対しては心を痛める

惸:けい

前集_224


桃李雖艶
何如松蒼栢翠之堅貞
梨杏雖甘
何如橙黄橘緑之馨冽
信乎濃夭不及淡久
早秀不如晩成也
桃李は艶なりといえども
なんぞ松蒼栢翠の堅貞なるにしかん
梨杏は甘しといえども
なんぞ橙黄橘緑の馨冽なるにしかん
信なるかな、のうようはたんきゅうにおよばず
そうしゅうはばんせいにしかざることや
桃や李(すもも)の花はあでやかだが
松や柏が青々として常に姿を変えないのに及ばない
梨や杏の実はおいしいが
黄色い橙(だいだい)や 緑の蜜柑の香気の芳しさに及ばない
まことに あでやかで はかないものは
あっさりして長久なものには及ばないし
早く穂の出るものは 遅く実るものには及ばない

前集_225


風恬浪静中
見人生之真境
味淡声希処
識心体之本然
風恬らかに浪静かなるうち
人生の真境を見る
味淡く声希なるところ
心体の本然を識る
波風が穏やかに静まる時
人生の真実が見える
食味のさっぱりした 美声のきかれないおり
人間の本来の姿がわかる


菜根譚の全文紹介(漢文、ひらがな読みの文章、現代の訳)
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