菜根譚 前集 101条-150条(漢文、読み仮名、現代語訳)

ここでは菜根譚の前集 101条から150条 の漢文、読み仮名、現代語訳を紹介します。


前集_101


人心一真
便霜可飛
城可隕
金石可貫
若偽妄之人
形骸徒具
真宰已亡
対人側面目可憎
独居則形影自媿
人心の一真
すなわち霜をも飛ばすべく
城をも隕すべく
金石をも貫くべし
偽妄の人のごときは
形骸いたずらに具わるも
真宰すでに亡ぶ
人に対すればすなわち面目憎むべく
独居すればすなわち形影みずからはず
人の心が真実ならば
夏にも霜を降らせるし
城壁をも崩せるし
金石をも貫ける
でたらめな人間は
肉体だけは備わっていても
人間らしさはなくなっているので
他人にさしむかえば憎たらしい顔つきで
独りの時は自己嫌悪に陥る

媿:はず

前集_102


文章做到極処
無有他奇只是恰好
人品做到極処
無有他異只是本然
ぶんしょうはきょくしょになしいたれば
たきあるなし、ただこれかっこうのみ
じんぴんはきょくしょになしいたれば
たいあるなし、ただこれほんねんのみ
よい文章は特別な技巧があるわけではなく
的確な表現があるだけだ
人格も最高になると特に変わった所はなく
人柄が自然にあらわれる

前集_103


以幻迹言
無論功名富貴
即肢体亦属委形
以真境言
無論父母兄弟
即万物皆吾一体
人能看得破
認得真
纔可任天下之負担
亦可脱世間之韁銷
幻迹をもって言えば
功名富貴を論ずるなく
すなわち肢体もまた委形に属す
真境をもって言えば
父母兄弟を論ずるなく
すなわち万物もみなわが一体なり
人、よく看得て破り
認めて得て真ならば
わずかに天下の負担に任うべく
また世間のきょう銷を脱すべし
幻の世界ということで言えば
功名や富貴はもちろんのこと
肉体も仮のものである
実在の世界ということで言えば
父母兄弟はもちろんのこと
万物は皆、我と一体のものである
ちゃんと見抜き
本当にわかった人であってこそ
初めて天下の大任を負うことができ
同時に世間のしがらみから抜け出ることができる

韁:きょう

前集_104


爽口之味
皆爛腸腐骨之薬
五分便無殃
快心之事
悉敗身喪徳之媒
五分便無悔
爽口の味は
みな欄腸腐骨の薬なり
五分なればすなわち殃いなし
かいしんのことは
ことごとくはいしんそうとくのなかだちなれども
ごぶならばすなわちくゆることなからん
口当たりの良い美味は
みな胃腸をただれさせ骨を腐らせる毒薬だ
半分に減らしたら害はない
楽しいことは
すべて身を誤り徳を失う契機だ
半分に減らしたら悔いはない

前集_105


不責人小過
不発人陰私
不念人旧悪
三者可以養徳
亦可以遠害
人の小過を責めず
人の陰私を発かず
人の旧悪を念わず
三者もって徳を養うべく
またもって害に遠ざかるべし
他人の小さな過失を責めたてない
他人の隠し事をあばきたてない
他人の昔の悪事を覚えておかない
この三つができたら人格を養えるし
同時に危害を遠ざけることができる

前集_106


士君子
持身不可軽
軽則物能撓我
而無悠猟団蠻啓
用意不可重
重則我為物泥
而無瀟洒活溌之機
士君子
身を持するは軽くすべからず
軽くすれば物よくわれを撓めて
悠猟団蠅亮颪覆
意を用うるは重くすべからず
重くすれば、われ、物のために泥みて
瀟洒活溌の機なし
士君子は
振る舞いは軽率であってはいけない
軽々しくすると他者につけこまれて
ゆったりと落ち着いた風格がなくなる
心配りは慎重にしすぎてはいけない
慎重にしすぎると他人に気兼ねして
さっぱり、はつらつとした働きがなくなる

前集_107


天地有万古
此身不再得
人生只百年
此日最易過
幸生其間者
不可不知有生之楽
亦不可不懐虚生之憂
天地に万古あるも
この身はふたたび得られず
人生ただ百年
この日最も過ぎやすし
幸いにその間に生まるる者は
有生の楽しみを知らざるべからず
また虚生の憂いを懐かざるべからず
天地は永久に存在するが
この身は二度と得られない
人生百年
あっという間に過ぎ去ってしまう
生まれたからには
その楽しみを自覚せよ
同時に無駄に過ごすことに不安を覚えよ

前集_108


怨因徳彰
故使人徳我
不若徳怨之両忘
仇因恩立
故使人知恩
不若恩仇之倶泯
怨みは徳に因りて彰わる
ゆえに人をしてわれを徳とせしむるは
徳怨のふたつながら忘るるにしかず
仇は恩に因りて立つ
ゆえに人をして恩をしらしむるは
恩仇のともに泯ぶるにしかず
怨みは人徳と対比されるから現れる
だから他人に人徳を感じさせるよりは
人徳も怨みも忘れる方がよい
仇は恩恵と対比されるから現れる
だから他人に恩恵を感じさせるよりは
恩恵も仇も消えるようにする方がよい

前集_109


老来疾病
都是壮時招的
衰後罪糵
都是盛時作的
故持盈履満
君子尤兢兢焉
老来の疾病は
すべてこれ壮時に招きしもの
衰後の罪糵は
すべてこれ盛時に作すもの
ゆえに盈を持し満を履むは
君子もっとも兢々たり
老後の病は
若い時のツケがまわったものである
落ち目の時にふりかかる災いは
好調な時にいい気になっていたからである
そこで君子は万事が好調なときこそ
言動を慎まなければならない

糵:げつ

兢兢:意地悪(や嫉妬)を恐れる。

前集_110


市私恩不如扶公儀
結新知不如敦旧好
立栄名不如種隠徳
尚奇節不如謹庸行
私恩を市るは公儀を扶くるにしかず
新知を結ぶは旧好を敦くするにしかず
栄名を立つるは隠徳を種るにしかず
奇節を尚ぶは庸行を謹しむにしかず
私的な恩義を押し付けるよりは公論を支持した方がよい
新しい人と友人になるよりは古い友人とのよしみを確かにした方がよい
名声を立てるよりは陰で徳を施した方がよい
並外れた節義を尊ぶよりは日常の振る舞いを慎む方がよい

前集_111


公平正論不可犯手
一犯則貽羞万世
権門私竇不可着脚
一着則点汚終身
公平正論は手を犯すべからず
ひとたび犯せば羞を万世に貽す
権門私竇は脚を着くべからず
ひとたび着くれば、終身を点汚す
公平な意見には逆らうことはできない
逆らったが最後、末代まで恥を残す
権勢ある者の巣窟には足を踏み入れてはいけない
足を踏み入れたが最後、生涯を汚す

前集_112


曲意而使人喜
不若直躬而使人忌
無善而致人誉
不若無悪而致人毀
いをまげてひとをしてよろこばしむるは
みをなおして ひとをしていまわしむるにしかず
善なくして人の誉れを致すは
悪なくして人の毀りを致すにしかず
信念を曲げて人を喜ばすよりは
我が身を正して人に嫌われた方がよい
善いことをしていないのに人に褒められるよりは
悪いことをしていないのに人にそしられる方がよい

前集_113


処父兄骨肉之変
宜従容
不宜激烈遇
朋友交游之失
宜剴切
不宜優游
父兄骨肉の変に処しては
よろしく従容たるべく
よろしく激烈なるべからず
朋友交游の失に遇いては
よろしく剴切なるべく
よろしく優游たるべからず
親兄弟に変事が起きたら
冷静に対応するのがよく
興奮してはいけない
友人や仲間の過失をみつけたら
適切に忠告するのがよく
なおざりにしてはいけない

前集_114


小処不滲漏
暗中不欺隠
末路不怠荒
纔是個真正英雄
しょうしょにしんろうせず
あんちゅうにぎいんせず
まつろにたいこうせず
わずかにひとりのしんせいのえいゆうなり
つまらぬことも、手を抜かず
人目がなくても、ごまかさず
どん底でも、やけをおこさない
こうであってこそ、ひとかどの人物だ

末路:仕事がなく落ち目になる。
怠荒:「怠」は人を馬鹿にする、「荒」は老いぼれるという意味。

前集_115


千金難結一時之歓
一飯竟致終身之感
蓋愛重反為仇
薄極翻成喜也
千金も一時の歓を結びがたく
一飯もついに終身の感を致す
けだし愛重ければかえって仇となり
薄極まりてかえって喜びと成るなり
いかに大金を積んでも人の歓心を買うのは難しい
一膳の飯が終生、感謝されることもある
目をかけすぎると、とかく裏切られやすい
さりげない心遣いは、案外、人の心に残る

前集_116


蔵巧於拙
用晦而明
寓清之濁
以屈為伸
真渉世之一壷
蔵身之三窟也
こうをせつにおさめ
かいをもってめいとし
せいをだくにぐうし
くつをもってしんとなす
真に世を渉るの一壷
身を蔵するの三窟なり
つたなく振る舞って才能を隠し
愚かな振りをして明察する
清節のままに濁流に身を任せ
身をかがめては伸びようとする
これこそが真に世間を渡る壺であり
我が身を保つ隠れ家である

寓清之濁:世の中はきれいごとだけではないという意味。

前集_117


衰颯的景象
就在盛満中
発生的機緘
即在零落内
故君子居安宜
操一心以慮患
処変当堅百忍
以図成
衰颯の景象は
すなわち盛満のうちにあり
発生の機緘は
すなわち零落のうちにあり
ゆえに君子は安きに居りてはよろしく
一心を操りてもって患を慮るべく
変に処してはまさに百忍を堅くして
もって成を図るべし
衰えの兆しは
最も盛んな時に始まり
新しい芽生えの働きは
葉の落ちつくした時だ
だから君子は平安な時は
心を一つにして患難に備えるべきであり
非常事態には、じっと忍耐して
乗り切ることを図るべきだ

発生的機緘:新しい活動がはじまるとき。
零落:落ちぶれたとき。

前集_118


驚奇喜異者
無遠大之識
苦節独行者
非恒久之操
奇に驚き異を喜ぶは
遠大の識なく
苦節独行は
恒久の操にあらず
奇異な事に驚喜するのは
遠大な見識がないからだ
ことさらに節操を重んじて孤立するのは
長続きする節操ではないのだ

前集_119


当恕火慾水正騰沸処
明明知得
又明明犯着
知的是誰
犯的又是誰
此処能猛然転念
邪魔便為真君矣
恕火慾水のまさに騰沸するところに当たりて
明々に知得し
また明々に犯着す
知るものはこれ誰ぞ
犯すものはこれ誰ぞ
このところよく猛然として念を転ずれば
邪魔すなわち真君とならん
怒りの火と欲望の水が沸き立っていることを
はっきりとわきまえながら
その上、はっきりとあやまちを犯してしまう
このとき知る主体は誰か
犯す主体は誰か
この点について奮い立って発想を転換したならば
怒りや欲望という邪魔がそのまま主体者の熱源になる

前集_120


毋偏信而為奸所欺
毋自任而為気所使
毋以己之長而形人之短
毋因己之拙而忌人之能
へんしんしてかんにあざむかるることなかれ
じにんしてきにつかわるることなかれ
おのれのちょうをもって ひとのたんをあらわすなかれ
おのれのせつにより ひとののうをいむなかれ
物事をただ信じてしまって悪者に欺かれてはならない
自分なら出来ると奮い立ちすぎて勢いだけに操られてはいけない
自分の長所をひけらかして他人の短所をあばいてはいけない
自分の下手なことを他人がうまくやるのをみて悪口を言ってはいけない

以己之長:自分は優秀だ(と勘違いして)という意味。

前集_121


人之短処要曲為弥縫如
暴而揚之
是以短攻短
人有頑的要善為化誨如
忿而疾之
是以頑済頑
ひとのたんしょは つぶさにびほうをなさんことをようす
もしあばれてこれをあぐれば
これたんをもってたんをせむるなり
人、頑あるは善く化誨をなすを要す
もし忿りてこれを疾まば
これ頑をもって頑を済うなり
人の短所はできるだけ取り繕ってやるのがいい
暴き立てて騒いだりしたら
短所のある自分が 他人の短所を責めて喜んでいるにすぎない
かたくなな人はちゃんと教え諭す必要がある
怒って憎むのは自分の頑固さで
他人の頑固さをつのらせることだ

前集_122


遇沈沈不語之士
且莫輸心
見悻悻自好之人
応須防口
ちんちんとしてかたらざるのしにあわば
しばらくこころをいたすなかれ
こうこうとしてみずからよしとするひとをみなば
まさにすべからくくちをふさぐべし
むっつりと、ものを言わない者には
本心を語らないようにする
怒りっぽくて自信ありげの者には
うっかり話しかけてはいけない

悻:こう

悻悻:逆らって、すぐに怒るという意味。

前集_123


念頭昏散処
要知提醒
念頭喫緊時
要知放下
不燃恐去昏昏之病
又来憧憧之擾矣
念頭昏散の処は
提醒をしらんことを要す
念頭喫緊の時は
放下を知らんことを要す
然らざれば恐らくは昏々の病を去りて
また憧々の擾れを来たさん
気持ちが散漫なときには
呼び醒ますことをわきまえなければならない
気持ちが張りつめているときには
解きほぐすことをわきまえなければならない
さもないと恐らく散漫という欠点はなおっても
今度は落ち着かないという心の乱れを引き起こす

前集_124


霽日青天
倏変為迅雷震電
疾風怒雨
倏変為朗月晴空
気機何常
一毫凝滞太虚何常
一毫障塞
人心之体亦当如是
霽月青天
たちまち変じて迅雷震電となり
疾風怒雨
たちまち変じて朗月青空となる
気機なんぞ常あらん
一毫の凝滞なり太虚なんぞ常あらん
一毫の障塞なり
人心の体もまたまさにかくのごとくなるべし
晴れた青空も
一変して雷鳴とどろき稲妻光る空となる
激しい嵐も
一転して明月輝く晴れた夜空となる
大自然の働きは変化して常はないものの
ほんの少しの滞りである、大空は変化して常はないものの
ほんの少しの塞がりである
人間の心も、こうありたいものである

前集_125


勝私制欲之功
有曰識不早
力不易者有
曰識得破忍不過者
蓋識是一顆照魔的明珠
力是一把斬魔的慧剣
両不可少也
私に勝ち欲を制するの功は
識ること早からざれば
力易からずというものあり
識り得て破るも忍過ぎずというものあり
けだし識はこれ一顆の照魔の明珠
力はこれ一把の斬魔の慧剣
ふたつながら少くべからざるなり
私欲を制御する努力について
ある人は言った、理解が遅れると
努力することが容易ではないと
ある人は言った、理解はできても
努力することに耐えきれないと
理解することは魔性を照す一粒の曇りなき宝石であり
制御しようとする努力は魔性を断ち切る一振りの知恵の剣であり
どちらも欠くことができない

前集_126


覚人之詐
不形於言
受人之侮
不動於色
此中有無窮意味
亦有無窮受用
ひとのいつわりをさとるも
げんにあらわさず
ひとのあなどりをうくるも
いろをうごかさず
このうちにむきゅうのいみあり
またむきゅうのじゅようあり
嘘を言っていると気づいても
口には出さない
馬鹿にしていると思っても
顔には出さない
こうした態度は深い味わいがあり
計り知れぬ効用がある

前集_127


横逆困窮
是鍛煉豪傑的一福鑢錘
能受其鍛煉則身心交益
不受其鍛煉則身心交損
おうぎゃくこんきゅうは
これごうけつをかれんするのいっぷくのろすいなり
よくその鍛煉を受くれば、身心こもごも益す
よくその鍛煉を受けざれば、見心こもごも損す
逆境・困窮は
立派な人格を鍛え上げる溶鉱炉である
鍛錬をちゃんとこなしたならば身心ともに充実するが
鍛錬をこなせないと身心ともに駄目になる

前集_128


吾身一小天地也
使喜怒不愆
好悪有則
便是燮理的功夫
天地
一大父母也使民無怨咨
物無氛疹
亦是敦睦的気象
わがみはいちしょうてんちなり
きどをしてあやまらず
こうおをしてのりあらしめば
すばわちこれしょうりのくふうなり
天地は
一大父母なり民をして怨咨なく
物をして氛疹なからしめば
またこれ敦睦の気象なり
私たちの体は一つの小天地だ
喜びや怒りの釣合いを保ち
好悪の感情を程よく持つこと
それが、わが身を調和させる工夫である
天地は
万物を生み出す父母だ。人々が恨みなく生き
万物それぞれが所を得ていること
それが、なごやかな天地の姿である

前集_129


害人之心不可有
防人之心不可無
此戒疎於慮也
寧受人之欺
毋逆人之詐
此警傷於察也
二語竝在
精明而渾厚矣
ひとをがいするのこころあるべからず
ひとをふせぐのこころはなかるべからず
これ慮るに疎きを戒しむなり
むしろ人の欺きを受くるも
人の詐りを逆うることなかれ
これ察に傷るるを警しむるなり
二語ならび在すれば
精明にして渾厚ならん
「他人に害を与える心はあってはいけない
他人からの害を防ぐ心はなくてはならない」
これは思慮の足りない人を戒めたのである
「むしろ他人から欺かれても
他人が欺くのではないかとかまえてはならない」
これは明察しすぎる人を戒めたのである
両語を心掛けたならば
判断は精明になり人格は円満になる

前集_130


毋因群疑而阻独見
毋任己意而廃人言
毋私小恵而傷大体
毋借公論以快私情
ぐんぎによりて どくけんをはばむなかれ
おのれのいにまかせて ひとのげんをはいするなかれ
小恵を私して大体を傷ることなかれ
公論を借りてもって私情を快くすることなかれ
みんなが疑うからといって誰か一人だけが正解を述べているのをつぶしてはいけない
自分の気持ちだけを優先して他人の発言を全否定してはいけない
勝手に小さな恩恵を施して全体をそこなうな
公論にことよせて個人的な感情を満足させるな

前集_131


善人未能急親
不宜預揚
恐来讒譛之奸
悪人未能軽去
不宜先発
恐招媒蘗之禍
善人いまだ急に親しむことあたわざれば
よろしくあらかじめ揚ぐべからず
おそらくは讒譛の奸を来たさん
悪人いまだかろがろしく去ることあたわざれば
よろしくまず発すべからず
おそらくは媒げつの禍いを招かん
善人でもすぐに親しくできていないときには
前もって誉めるのはよくない
きっと、よこしまな人の讒言(ざんげん)を招くから
悪人でも簡単に退けることができていないときには
前もってあばくのはよくない
きっと、罪に陥られるわざわいを招くから

蘗:げつ

前集_132


青天白日的節義
自暗室屋漏中培来
旋乾転坤的経綸
自臨深履薄処操出
青天白日の節義は
暗室屋漏のうちより培い来たり
旋乾転坤の経綸は
臨深履薄のところより操り出す
晴れわたった青空のような節義は
人知れぬところでつちかわれたものだ
天地を手玉にとるような行政は
深い淵にいどみ、薄氷を踏むような用意から実施されたものだ

前集_133


父慈子孝
兄友弟恭
縦做倒極処
倶是合当如此着不得
一毫感激的念頭
如施者任徳
受者懐恩
便是路人
便成市道矣
父は慈に子は孝に
兄は友に弟は恭に
たとい極処になし到るも
ともにこれ、まさにかくのごとくなるべし
一毫の感激の念頭を着けえず
もし施す者は徳に任じ
受くる者は恩を懐わば
すなわちこれ路人
すなわち市道と成らん
親は子を慈しみ、子は親に孝行する
兄姉は弟妹を可愛がり、弟妹は兄姉を敬う
家族はこうするのが当たり前
感激するには及ばない
恩を施したものが恩の押し売りをする
恩を受けたものがこれを気にかけすぎる
これでは赤の他人
商売の取引と同じになってしまう

前集_134


有妍必有醜為之対我
不誇妍
誰能醜我
有潔必有汚為之仇我
不好潔
誰能汚我
妍あれば必ず醜ありてこれが対をなすわれ
妍に誇らざれば
たれかよくわれを醜とせん
潔あれば必ず汚ありてこれが仇をなすわれ
潔を好まされば
たれかよくわれを汚さん
美があれば醜があり対になっている
美しさを誇らなければ
誰が醜いと言うだろう
潔と汚も対になっている
潔癖を自慢しなければ
誰が汚いと言うだろう

前集_135


炎涼之態
富貴更甚於貧賎
妬忌之心
骨肉尤狠於外人
此処若不当以冷腸
御以平気
鮮不日坐煩悩障中矣
炎涼の態は
富貴さらに貧賎よりもはなはだしく
妬忌の心は
骨肉もっとも外人よりも狠なり
このところ、もし当たるに冷腸をもってし
御するに平気をもってせざれば
日として煩悩障中に坐せざること鮮なからん
人情の暖かさ冷たさは
富貴な人の方が貧賤な人よりも一層はげしい
妬み嫉む心は
肉親の方が他人よりも一層はげしい
この点について、もしも冷静に対処せず
平静に制御しないと
毎日、煩悩の苦しみにさいなまれる

前集_136


功過不容少混
混則人懐惰堕之心
恩仇不可大明
明則人起携弐之志
こうとかとは すこしもこんずべからず
こんぜばすなわち ひと だきのこころをいだかん
恩仇は大いに明らかにすべからず
明らかにせば携弐の志を起こさん
功績と過失は わずかでも混同してはならない
混同してしまうと人は怠惰で出鱈目な心を持ってしまう
恩義と遺恨は はっきりしすぎてはいけない
はっきりすると人間は離反の心を起こす

前集_137


爵位不宜太盛
太盛則
危能事不宜尽畢
尽畢則
衰行誼不宜過高
過高則
謗興而毀来
爵位はよろしくはなはだ盛んなるべからず
はなはだ盛んなれば
危うし能事はよろしくことごとく畢るべからず
ことごとく畢れば
衰う行誼はよろしく過高なるべからず
過高なれば
謗興りて毀来たる
爵位は登り詰めない方がよい
登り詰めると
危ない、できる事は全部終えない方がよい
全部終えてしまうと
衰える、品行はあまりに高すぎない方がよい
あまりにも高すぎると
誹謗中傷を招いてしまう

前集_138


悪忌陰
善忌陽
故悪之顕者禍浅
而陰者禍深
善之顕者功小
而陰者功大
悪は陰を忌み
善は陽を忌む
ゆえに悪の顕われたるは禍に浅くして
隠れたるは禍に深し
善の顕われたるは功小にして
隠れたるは功大なり
悪事は人目につきやすく
善事は人目につきにくい
だから現れた悪事はわざわいの根は浅いが
隠れた悪事は根が深い
現れた善事は功績は小さいが
隠れた善事は功績は大きい

前集_139


徳者才之主
才者徳之奴有才無徳
如家無主而奴用事矣
幾何不魍魎猖狂
とくはさいのしゅ
さいはとくのどなり さいありてとくなきものは
家に主なくして、奴、事を用うるがごとし
いかんぞ魍魎にして猖狂せざらん
徳が主人であり才能は召使である
才能だけあって徳がないのは
主人のいない家を召使が仕切っているようなもの
これでは化け物にやりたい放題にされても仕方ない

前集_140


鋤奸
杜倖
要放他一条去路
若使之一無所容
譬如塞鼠穴者
一切去路都塞尽
則一切好物倶咬破矣
奸を鋤き
倖を杜ぐには
他の一条の去路を放つを要す
もしこれをして一も容るるところなからしめば
たとえば鼠穴を塞ぐもののごとし
一切の去路すべて塞ぎ尽くせば
一切の好物ともに咬み破られん
悪人を
なくすには
一筋の逃げ道を残してやることだ
追いつめてしまうと
巣穴の入口をふさがれたネズミと同じ
逃げ道をすべてふさぐと
部屋中の品物をすべて食い齧られる

前集_141


当与人同過不
当与人同功
同功
則相忌可与人共患難
不可与人共安楽
安楽則相仇
まさに人と過ちを同じくすべし
まさに人と功を同じくすべからず
功を同じくすれば
相忌むひととはかんなんをともにすべきも
ひととあんらくをともにすべからず
安楽なれば相仇とす
他人と失敗を分かち合うべきではあるが
成功を分かち合うべきではない
成功を分かち合おうとすると
仲たがいする、他人と苦難を共にするのはよいが
他人と安楽を共にしてはいけない
安楽を共にすると憎しみ合う

前集_142


士君子
貧不能済物者
遇人癡迷処
出一言提醒之
遇人急難処
出一言解救之
亦是無量功徳
士君子
貧にして物を済うことあたわざる者
人の癡迷のところに遇い
一言を出してこれを提醒し
人の急難のところに遇い
一言を出してこれを解救す
またこれ無量の功徳なり
士君子が
貧乏で他人を救えなくても
智慧がまわらずに迷っている人に出会ったら
一言述べて目を覚まさせ
危難に苦しんでいる人に出会ったら
一言述べて救い出す
これも計り知れない功徳である

前集_143


饑則附
飽則颺
燠則趨
寒則棄
人情通患也
饑うれば附き
飽けばあがり
燠かなれば趨き
寒ければ棄つ
人情の通患なり
ひもじい時は頼ってくるが
くちくなくなると飛んで行ってしまう
裕福な時は寄ってくるが
貧乏な時は見向きもしない
これが人情の通弊だ

颺:よう

前集_144


君子宜浄拭冷眼
慎勿軽動剛腸
君子はよろしく冷眼を浄拭すべし
慎しんでかろがろしく剛腸を動かすことなかれ
君子は冷静な目を曇らせないことが大事
軽々しく剛直さを発揮してはならない

剛腸:冷静で人に決して動かされない心。

前集_145


徳随量進
量由識長
故欲厚其徳
不可不弘其量
欲弘其量
不可不大其識
とくはりょうにしたがいてすすみ
りょうはしきによりてちょうず
ゆえにそのとくをあつくせんとほっせば
そのりょうをひろくせざるべからず
そのりょうをひろくせんとほっせば
そのしきをだいにせざるべからず
人格は器量のままに向上し
器量は見識に基づいて大きくなる
だから、その人格を豊かにしようと思えば
その器量を大きくしなければならない
その器量をおおきくしようと思えば
その見識を高くしなければならない

前集_146


一灯蛍然
万籟無声
此吾人初入宴寂時也
暁夢初醒
群動未起
此吾人初出混沌処也
乗此而一念廻光
烱然返照
始知耳目口鼻皆桎梏
而情欲嗜好悉機械矣
一灯蛍然として
万籟声なし
これ吾人初めて宴寂に入るの時なり
暁夢初めて醒め
群動いまだ起こらず
これ吾人初めて混沌を出ずるところなり
これに乗じて一念光りを廻らし
烱然として返照せば
始めて耳目口鼻はみな桎梏にして
情欲嗜好はことごとく機械たるを知る
ほのかな灯火のもと
天地の万物が静まり返った夜ふけこそ
心身が安らかになる時である
夢から覚めたばかりで
万物がまだ動き出さない明け方こそ
混沌から抜け出る時である
この時すかさず自分を省み
知恵の光をめぐらすならば
耳目口鼻の官能はすべて足枷であり
情欲物欲はすべて人を誤らせる仕掛けであることがわかる

前集_147


反己者
触事皆成薬石
尤人者
動念即是戈矛
一以闢衆善之路
一以濬諸悪之源
相去霄壤矣
己れを反する者は
事に触れてみな薬石と成る
人を尤むる者は
念を動かせばすなわちこれ戈矛
一はもって衆善の路を闢き
一はもって諸悪の源を濬くす
相去ること霄壤なり
自己を反省する者は
何事もみな良薬となるが
人をとがめる者には
意識を働かすことがそのまま他人を傷つける矛である
前者は善行の道を開き
後者は悪事の源を深くする
まさに天地ほどの違いである

前集_148


事業文章
随身銷毀
而精神万古如新
功名富貴
逐世転移
而気節千載一日
君子
信不当以彼易此也
事業文章は
身に随いて銷毀す
而して精神は万古新たなるごとし
功名富貴は
世を逐うて転移す
而して気節は千載一日なり
君子
まことにまさに彼をもって此に易うべからず
事業と教養は
その人と共に消えてしまうが
精神は永遠に生き続ける
名声と富貴は
時世と共に移り変わるが
人間の気概は千年も一日のように変わらない
君子は
決してこの世のものを永久的なものと取り替えるべきではない

前集_149


魚網之設
鴻則罹其中蟷螂之貪
雀又乗其後
機裡蔵機
変外生変智巧何足恃哉
魚網の設くる
鴻すなわちその中に罹る蟷螂の貪る
雀またその後に乗ず
機裡に機を蔵し
変外に変を生ず智巧なんぞ恃むに足らんや
魚を捕ろうとして網をかけると
そこに水鳥がかかることがある
蝉を狙うカマキリは
雀が背後から狙っているのに気付かない
仕掛けの中に仕掛けが隠され、異変の外に異変がある
知恵や技巧がどんなに優れていても、頼りにならない

前集_150


作人無点真懇念頭
便成個花子
事事皆虚
渉世無段円活機趣
便是個木人
処処有碍
人となるに点の真懇念頭なければ
すなわち個の花子と成り
事々みな虚なり
世を渉るに段の円活機趣なければ
すなわち個の木人
処々碍りあり
人間として少しは誠実な気持ちがないと
乞食になってしまい
なすこと全てがいつわりとなる
世渡りには、ひとつ如才のない気転がなければ
でく人形になってしまい
いたるところでうまくいかない

円活機趣:相手がこの世を滑らかに生きていく方向を教える力。


菜根譚の全文紹介(漢文、ひらがな読みの文章、現代の訳)
菜根譚 前集 001-050条 |  菜根譚 前集 051-100条 |  菜根譚 前集 101-150条 |  菜根譚 前集 151-200条 |  菜根譚 前集 201-225条
菜根譚 後集 001-050条 |  菜根譚 後集 051-100条 |  菜根譚 後集 101-134条